SF映画なら”ビーッ!ビーッ! ”と赤色灯がグルグル回転し、乗員が右往左するシーンだ。舵を切り船首を回頭し、直近のヨットハーバーを捜す。
「リフトキール」・・・デッキ・船内の備品を固縛し、溢れ出る水を汲み出す。通常のヨットは船底に飛行機の翼状の鉛の固定キールであるが、この艇はマスト基部の専用ウインチによるリフトアップ式。船底からデッキまでつながったケースの中で鉛の2mほどのキールが、渋く重いウインチハンドル2回転で1インチ上下するのだ。最低ドラフト80cm、最長1.6m...どのくらい回せばいいのか気が遠くなる作業であった。
排水が追いつかない、そのケース付け根にクラックが入り、船内には大量の水が噴出している。それは見る見るうちに20、30センチと増えてくる。クラックにウエスを詰め込み浸水を抑える。相棒はデッキで逃げ込む先を最短距離で捜す!捜す!捜す。
「冷たい水の重み」・・・あたりは小春日和!この場の悲鳴のような喧騒とはうって変わり、うららかな日差しが穏やかさを映しだしていた。何でこんな所に来てしまったのだろう?脳裏をよぎる後悔をさえぎるように、ディーゼルモーターのリズミカルな音に変化が起き、我に返る。たっぷりと吸い込んだ水の重みで負荷がかかり始め船足が落ち、ますます窮地に追い込まれてゆく。 「不運とツキ」・・・そうさ!自分で望んだ旅だもの。このくらいは予期していたはずさ!不思議と先ほどから平静な自分を発見した。・・と、ツキが廻ってきた!はるか先に重機の影を発見、1~2マイル先/艇速2ノットあと1時間ほどの頑張りで助かる!はずだ?。
「小さな造船所」・・・不運とツキ、それは警戒を怠ったツケと先々を見越した準備だ。ただ不思議なこともずいぶんある。なぜなら逃げ込んだ先は KaLLandso VARV AB と表示する1000トンクラスの造船所だったのだ。実際あたりには何もなく、そびえ立つクレーンの先が見えただけの入り組んだフィヨルドであった。
生きも絶え絶えのその姿を、遠くに発見した彼らも準備を整えてくれていた。岩だらけのL状の掘割の奥深くにリードされ、6人ものエンジニアにより艇は吊り上げられた。無残にも船底基部にあるリフトキールには指がはいるほどの亀裂が走っていた。
0 件のコメント:
コメントを投稿