2010/06/22

シャトー ラッコスロットの Summer Time

1999年5月 スエーデンの南、ヨーテボリからヨータ運河を経て、バルト海へ。水の都ストックホルムからさらに、およそ24000もの島々に囲まれたオーランド諸島を経由し、フィンランドの首都ヘルシンキへ。
ここから南下しバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアを訪ね、河川・運河を利用してポーランドを横断、Oder国境河とキャナル・シュプレイを辿りドイツの首都ベルリンへ、そして終着ポツダムまでバルト海1周のヨットの旅だった。
ヨータ運河は世界で自然が一番美しいとして知られる運河。折々の季節の表情と手つかずの自然景観に溶け込み、シンとした空気にそびえ立つ居城。そして中世からの城壁に囲まれた街と村を百数十キロに渡りつなぐ。
のどかに長閑に1日が過ぎていく。木々を通過した風が「さらさら」と緑葉のささやきと共に耳元をくすぐる。
バーネルン湖の奥深くまわりこんだ入り江を一望するなだらかな丘の上に、その城はあった。
200年ものあいだに刻まれた城壁の痛手を、そっと包むように、春の芽吹きの草花があたり一面をおおい尽くしていた。
古橋を渡ると城門に向かってうねうねと続く、砕いた煉瓦を敷き詰めた小道が、ひんやりとした石積みの城内に導いてくれるのだった。
一歩踏み込むと、人は威圧され一瞬たじろぐ...そこは歴史がとまったかのようにシンと静まり返っていた。そして、私にとってここが、思いもよらぬ苦難を乗り越えてたどり着いた忘れられぬ城 『 シャトー・ラッコスロット 』 になったのだ。
「その時が訪れた」・・・澄み切ったうねりと白い水泡を後方に押しやりながら、黄色と緑に塗られた水路標識の間隙を左右に向きを変えていく。そして、その悪夢の瞬間を迎えた。
On The Rock ! ・・・ ガツッ!鈍い音を立て 8mの艇が前のめりに停止した。その直前、数mほどの見通しが利かない岩の小島を回り込むと水路標識がフイに見えなくなった。危険信号が頭の中を駆け巡り、デッドスローにスロットルを絞りこんだ瞬間 "  On The Rock  " ・・・こんなところで!注意していたにもかかわらず...この間数秒、船室内に飛び込み床板を跳ね上げるもなく、コンパニオンウエイから差し込む陽ざしに照らされた船室の床に、ゴボゴボと雪解けの水が噴出していた。外は水深8m・水温16度、かなり危険な状況に陥っていた。入り江の奥深くかすかに、そのシャトー・ラッコスロットが視認できるポイントだった。
                                                                            ... ...つづく

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