2010/06/29

マリエスタードの夕暮れ

そこには数千年前に降り積もった厚み数千mもの氷雪が圧し掛かり、内陸に行くほど厚く強く...ついにはその重み耐え切れず凍てついた大地はあっさりと潰れた。時代を経て氷雪が溶け、風雨の侵食と波浪により侵食され傷つけられた大地の名残がフィヨルドとして残されたのだ。
行く先々には陽だまりの中にまるでつきたての鏡餅のように丸く柔らかそうな小さな島も、または水面から覗くギザギザの岩礁も、そして岩盤を貫き成長した針葉樹に覆われた島々もが、畏怖延々と点在していた。
往く手はあらゆるチャンスをうかがう黒豹のように洗岩群が潜みそして、それらのあいだを吹き抜ける腰のあるブローが往手をさえぎる。狭まれた海峡が造りだす不規則な三角波の群れが小さなヨットをからかい翻弄する。
細い水路を行くと人のぬくもりが人家影と共に伝って来る。そこには本を読みテラスで朝食を取る、まだ遇えぬ見知らぬ人々が住んでいるのだ。
ひとまずプロの造船技師の手により修理が成された。その間成形されるキールと船底を見守りつつ過すしかなかった。造船所の裏庭の一画には美しいヨットが建造され、陽に耀き胸膨らませた新しいオーナーの出迎えを待っていた。
風向S、風力5~7。風波の中、機走と帆走を交え細心の注意を払いソロソロと進む。グリーン、レッドのポールを視認しながら海図と首っ引きで針路を取る。今日はウィークディともあって航行するボート、ヨットが多い。針路110°およそ2時間で90°に変針。燈台、標識、ランドマーク&ポイント其々を海図でトレースしながら広い未知の湾を転進していく。
目的のマリーナが見え始めてもG/Rポールは航路を指示し、自由には航行させてくれない。遠くにクラブレースのヨット群が白いセールに風を受け帆走している。そこそこの強風の中、地元の地理を生かして自由なコース取りをしているように思うが、なかなかどうしてポイント、ポイントで標識に従い航行していることが解る。
遠く陸上の丘に高い尖塔がそびえ立ち、正面から左舷へそして後方へ過ぎていく。かすかにマリエスタードの街が見えてきた。
創造主が海と造り違えたのか、とてつもなく大きな湖が連なるバーネルン湖、時には水面は滑らかに次の瞬間大海原のように波は沸き立つ。1日平均4~5ノットで30マイル。晴れ、曇り、雨と加えて低く垂れ込めた雲から吹き降ろす冷たく腰のある風。セーリング、機走の繰り返しの後、人の気配すらない水路を抜け入り江を点々としながら、今日の目的地「マリエスタード」の水深4m、幅20mの水路にソッと入り込むことが出来た。  

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