2009/11/09

彷徨える老英国人 その2

朝、よれたTシャツにぶかぶかの短パンで、ウッディクリンカー張りディンギーのニスを汗まみれになって剥離作業していた。しばらくしてふと見ると、それらを放置したままでどこやらに出かけた様子。この間、作業時間小1時間。午後になってもそのまんまの放置状態。もう疲れたのか作業は中止のようだ。やれやれ、10日もかけて仕上げようとしているのか、のんびりしている。

その夕刻、端正なその体に純白のバスローブをまとい、鼻唄まじりでステップも軽やかに船上に現れ、向かいのサウナに向かう。目の前の後すがたは、そのときの「汚いジイさん」のイメージは微塵もない。

ロケーションは順風流れる北欧のヨットハーバー!
45Feetの大型キャビンクルーザーに住み、デッキチェアーに Jazz とスコッチ ・・・・ すべてTVドラマの光景なのだが・・・・♪
 ムムッ 何か足りない・・・・あららっ!一人旅なの?

1999年初夏

「ハロー・ボーイ !」 「えっ! ンニャ、おぉ ハロ~・・・!」純白のバスローブに包まれた大柄な体をひねり、挨拶もそこそこにハーバー備付のシャワー&サウナのドア越しにすれ違った初老の恰幅の良い英国人、これが最初の出合いだった。この日6月11日の午後、私はオーランド諸島のマリエハムンヨットハーバーに接岸したのだ。

これからは【捏造】だが、この大型艇にクルーが一人もいない。操船はあの老人一人では無理であろう。聞けばドーバーを渡り、運河伝いにフランス・オランダ、ハンブルグそして、北海をデンマーク・スウェーデン。そして、バルト海に入り、オーランドまで来たのだと言う。
無理 × 2 <絶対!絶対!> ム~リッ! 出来るわけないでしょう、この岩だらけのフィヨルドを、しかもたった一人で・・・・。
そしてここに幾日滞在しているのやら、我々が来たときには「デーン」と正面の殿様バースに接岸していた。そして今も!最高のロケーションに就けている。それもサウナのまん前に。

【さらに想像はエスカレートしていく。】
おそらく家族はいるはずだ。しかも金持ちの、それも途轍もなく。そして本人はかなりの頑固ジイさんである。
ん~?― お金がたくさん?頑固な嫌われジ~ィ爺・・・・? とくれば、ウルサイから多分家にいてほしくないと身内は思う・・・・はずだ!
ん~で結論は、その誰かさんが「遊びに行っておいで~」と職業クルーをつけて送り出したのだ。そして、この地で職業クルーは帰国・・・・ケンカして♪♪♪

【さらに創造はエスカレート】

彼は1人置いてきぼり。(誰かさんに、仕組まれて)帰りたくても帰れない。 しかしそこはプライドある英国人。ワイン・スコッチ・ヨットハーバーと見物人に、程よい気候。そして最高なロケーションに季節は!サマータイム・・・・。
とくりゃ! これだけ舞台がそろっていれば、後は自由気まま・・・・。

な、なんと、今度は船長キャップ、濃紺のブレザーにホワイトパンツ。締めくくりはイエロータイの出で立ち " バーンです " 驚いた、本日四回目のお召し替え。氷の入ったスコッチグラスに葉巻ときたら、もう、真にムービーの世界。そしてそして船内深くからジョン・コルトレーンの「Tサックス」が流れているではないか。これはもうほんまもん。並の人間にはマネが出来ません。
デッキチェアに深くくつろぎ、「コルトレーン」をバックに夕陽を楽しむ。カラ~とスコッチグラスを鳴らしながら・・・・。
【負けた】負けました。器が違う。

「ROYAL BRITAIN」の真髄を垣間見たような気持ちであります。いま彼は、数冊の書物を片手にデッキシューズをキュキュと鳴らしながら、日課となっているハーバーレストランに足取りも軽く向かう。
 「それもそうだ!余りの暴君ぶりに、クルー兼コックにも逃げられたのだから」少々自嘲気味のわたしでした。
この2週間後、ヘルシンキのヨットクラブで再会する。妙齢な貴婦人を伴って・・・・。
さ~ぁ!面白くなってきたゾ! 次回に続く。

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