2012/01/23

Travels with Charley The Viking press,1962.

子供のころ、たまらなくどこかへ出かけたくなると、大人は私に「大きくなれば、そんなにむずむずしなくなるよ」といったものである。年齢からいって大人の仲間にはいると、中年になればおさまる、とのことだった。
いざ中年になると、こんどは「もっと年をとれば、その病はなおる」といわれた。いま五十八歳だから、これだけ年をとれば、だいじょうぶなはずである。
ところが、病は一向になおらない。
こんな書きだしでこの物語がはじまった。そしてつぎのパラグラフには...

出航の汽笛がボォッ!と鳴るのを聞いただけで、体がぞくぞくし、足が宙に浮いてくる。ジェット機の音、車のエンジンのかかる音、パカパカと歩道をゆく馬のヒズメの音を聞くだけでも、子供時代からの旋律がよみがえり、ノドはかわき、目はうつろ、手は火照り胸騒ぎがしてくる。
私は一向に成長していなかったのだ。もっというと、風来坊はいつまでたっても風来坊。こまったことに、この病は不治らしい。いや、こんなことを書くのも、人さまに教えさとすためでなく、自分自身にいいきかせるためである。
二十数年前に神保町の、とある古書店でこの書籍を購入した。偶然に「私を読んでみて!」と古びた書棚の片隅から、売込みを図ったのである。角が裂け、滲みのついたそのタイトルが...
チャーリーとの旅!ジョン・スタインベック著 1962年...。
すでにヨットやその前にはキャンプなどに入れ込み放浪癖が身についていた私には、流行の言葉で言う「ヤバイ!」誘惑の書であった。それ以来冬の夜の枕元にはいつも置いてあったものだった。知り合いに貸しそのままに。すでに無くなってしまったものだと思い込み、もしかしたら!と神保町の古書店に幾度も足を運んで古書を探したものだった。あきらめかけていたそれが偶然に昨夜、ゴソゴソしていた私の書籍棚の隅に見覚えのあるカバーが埃をかぶっていた。カバーだけか!と手に...するとなぜか!本体が中にはいっていたのだった。
長い冬の夜長...さむくて海に行けない!言い訳の代わりに、今夜から私の愛読書が、また1冊増えたのだった。彼の愛艇が台風の入り江でアンカーを捥がれたボートにのしかかられるさまを...57歳の著者が荒波に飛び込み愛艇を救うシーンに、ドキドキと手に汗しなが読み耽るのだ!
だがしかし...天気晴朗なれ共波高し 日本海海戦 ... イヤイヤ、相変わらず西風強く、風浪高し!駿河湾は風浪の振動が外洋から増幅され腰の強いうねりとなって駿河湾の奥に向かって流れ込むのだ。
その先には遥かなる裾野がひろがり、葛飾北斎の富士山を背景に大きな波の「富嶽三十六景 東海道江尻田子の浦略図」 が飛び込んでくる。
そんなときにはやはり信州諏訪の樽生酒 真澄 あらばしり!専用の利き酒ぐい呑みにてグビグビ!といただく...ブハ~ッ!つまみ?あて?...イヤイヤそんな物は要らない。安良里の澄み切った入り江と、冠雪の富士!
お炬燵で足を暖め、キャビン煽る。それで充分である...そっか!松崎の川海苔があれば...ハァ~ 贅沢か!

0 件のコメント: